初めて会社で泣いた日
4月から、新しい会社に転職した。
今までは、官公庁での仕事ばかりだったけど、初めて、企業(しかも結構大きめ)の事務パートで働くことになった。
官公庁とは違い、5年満期がなく、ずっと勤められる!もう「任期満了」の文字におびえなくていい!!嬉しい。
とにかく、「慌てない」、「前職の仕事を引きずって自分を出さない」ことに徹した。
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そして、2か月たって、まだ慣れずにオロオロ・右往左往している時期。
この日は、会社の給料日
朝からあいさつ運動ののぼり旗を持った青年が元気にあいさつしてくるような、陽気な朝だった。
10時くらいだったかな。
NGさんがいつもの「ツカツカツカ」って早足で、不機嫌に近づいてきた。
私は、外線電話の対応中で、その姿を見て 少しテンパったけど、なんとか電話をつなぐことができた。
外線電話を終え、受話器を置いたところで素早く、
「塩沢さんこれ」渡されたのは、ヨウコさんの先月の勤務月報。
「ここ、早退になってるよね?分割休と間違ってる!!早退と分割休の違いはわかる?」
「・・・はい。早退は自己欠勤で無給、分割休は一時間単位でとれる有給のことです。」
「それだけじゃないよね?自己欠勤は、ボーナス査定や、皆勤手当にも響くのよ。絶対間違っちゃダメなとこ!すぐに修正願い書いて、私に見せてから、人事課に提出してね!」
不機嫌に早口でまくしたてられ、はい、としか言えなかった。
すぐに、ヨウコさんが提出したパートタイム休暇申請書を探した。
でも、その申請書には、ヨウコさんの綺麗な字で「自己欠勤早退」にチェックと時間が記されていた。
なんだ、私、間違ってないじゃん、とだいぶホッとした。
まだ、その辺の人と高らかに笑ってしゃべっているNGさんを見つけて、研究室の席に戻ろうとするところを呼び止めた。
私の声を聞くなり、また不機嫌モードになり、「何?」とだいぶ偉そうに両手を上着のポケットに入れたままやってくる。
「ヨウコさんの申請書です。早退にチェックが入っています。」
「・・・ああ。本当だね。・・・でも、本人は分割休で出したつもりでいるから、どっちにしろ修正願いはいるから。これ、本人に確認しなきゃダメだったやつだよね?気づかない方もおかしいから!!」
そう言って、足早にその場を去っていったNGさん。
ボー然となった。
あんなに、あんなに、間違うな、と私に教えてくれたNGさん。
パートさんの中には、小さなお子さんを抱えた人も多くて、年休の日数が残っていても、インフルエンザなど、休みを多く必要とする時期に合わせて有給をためておいて、ほかの時期だけ「自己欠勤」する人も多いから、なんでもかんでも有給で処理しないで、ちゃんと申請書を確認するように!とあんなに念を押されていたのに。
本人が申請して、課長印まで押された申請書を信じずに、何を信じて確認しろと?
私が抱えているパートさんは15名。職員は30名。
全部で45名もいる部署で、申請を疑って確認するの? なんの確認?
私、どんだけ暇だと思われてる!?
あなたが置いて行った8cm幅のドッチファイルの確認、3冊ありますけど?
毎日納品も20分おきに来て、普段は「働く細胞」の赤血球。。。
思考停止中の中、しばらく、席について、申請書を眺めて、修正願いのデータを引っ張り出す。
ため息しか出ない。
なんて書くの?私、間違ってないのに、私の確認不足ですって書くの?
何度目かの、ため息ついたら、涙があふれてきて、あわててロッカールームに駆け込んだ。
信じていたものが崩れた。
どんなに厳しくても、不機嫌でも、「正しい」ことに誠実なNGさん。いつも正論。
だからこそ、きつい言い方でも、納得できたし、尊敬できた。尊敬していたんだよ。
早口で、イライラしながら私に教育する時間も「忙しい人の時間を5分も奪ってしまった!申し訳ない!!」って本当に思っていた。
でも。
今回は、正しくない方の肩を持って、私を責めた。
普段から、必要以上の世話を焼くな、とか、こっから先は私たちの仕事じゃない、とか、線引きしまくって、きつく、きつく、きつく、私に呪文のように言っていたのに。
これは、普段、あなたが言っていた「私たちの仕事じゃ無いから、本人の間違いは本人にどうにかしてもらって」と言われていた内容だったのに。
悔しくて、悲しくて。
「きつい物言いをするところが嫌い」だったのが、「NGさんが嫌い」に変わる瞬間だった。
たくさん、たくさん泣いた。
この歳で、この職歴で、こんなに仕事のことで、新人みたいに泣くとは思わなかった。
そういえば、前職で、帰国子女の新人に、私はなんて教育していただろう?
日本のこともわからない新人、社会人1年目の彼女に、私はこういう態度をとっていなかっただろうか?
今、私は過去の自分の過ちを正してもらっている期間なのかもしれない。
あの帰国子女は、明らかに傷ついていた。
でも、私は思っていることを、言葉にしてしまった。
おそらく、彼女も「きついもの言いをする人」から、「塩沢さん嫌い」になったんだろうな。。。
因果応報。
席に戻って、「ヨウコさん本人が提出する」前提で内容を書いた「修正願い」を作成した。
「早退と分割を間違ってしまったため」と理由を書き、ヨウコさんにメールを出した。
修正願いとヨウコさん手書きの申請書のPDFをつけて。
もちろん、CCにNGさん。
ヨウコさん本人から、すぐにチャットで「ごめんね」の文章がきた。
NGさんからは、何もなかった。
当時の私も、そうしただろう。
忙しさは正義ではない。
ひとり、ひとり、時間がちゃんとある。
そんなことを修行させてくれる、48歳の転職。